婚約者の浮気相手が子を授かったので
「だいぶ風も暖かくなりましたね」
「そうだな。ノスカ山の雪が解けてくると、残雪が鳥の形を作る。『種蒔きを告げる鳥』と呼ばれ、それが見えたら、種蒔きが始まる時期だ」
「その鳥は、いつ頃見れますか?」
「そうだな。あと一か月後には。その頃になれば、あそこの庭園は一面黄色に染まる」
 エルランドが指を差したのは、王宮管理の庭園の一部だ。
「もしかして……。エルバーハの花ですか?」
「そうだ」
 エルバーハは、雪が解け、暖かくなる季節に咲き出す黄色い花。花が咲く前の蕾や茎は料理にも使われる。柔らかい葉はエルバーハ茶として楽しまれることもある。
「エルバーハは、リヴァスではあまり見ることができない花なんですよね。特に、王都のパドマではまったく見たことがありません」
「そうだな。エルバーハは、ベロテニアのような気候の方がよく育つ」
「楽しみです。エルバーハの花が咲くのが」
「なんだ。てっきり『調茶』に使いたいというのかと思ったのだが」
 エルランドが、くくっと笑った。
「もう。私だって、普通に花を愛でたいときだってあります。むしろエルバーハの花の方を『調茶』に使いたいと思っているくらいです」
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