婚約者の浮気相手が子を授かったので
 エルランドが手で口元を押さえたまま固まった。どう答えたらいいのか、困っているように見える。
「まぁ。エルバーハは、料理にも『調香』にも『調薬』にも使える万能な花だからな。花を『調茶』にというのもあり得るかもしれない」
「でも。ここ一面に咲き誇ったエルバーハの花を、エルさんと一緒に見たいです。今年だけでなく、来年も、ずっと……。エルバーハって、なんか、エルさんの花っていう感じがします」
 名前が似ている。エルランドとエルバーハ。
「あぁ。エルバーハは、母上が好きな花だ。オレが生まれた時、エルバーハの花が見事に咲き誇っていたらしい」
 だからエルランドの名前の一部に使ったのだろう。
「私も好きですよ」
 エルランドは何も言わず、繋いだ手に少しだけ力を込めてきた。
 だが、ファンヌは気づいた。エルバーハが咲き誇った時期にエルランドが生まれたとしたなら、彼の誕生日がもうすぐやってくるということに。
(カーラとサシャに相談しよう……)
 胸の内を悟られないように、ファンヌはエルランドに笑顔を向けた。

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