婚約者の浮気相手が子を授かったので
 いつものように『調薬室』に顔を出して、オスモに状況を説明する。するとオスモも「行っておいで」と笑顔で送り出してくれた。
 そのまま王宮の中に入り用件を伝えると、国王の執務室に案内された。
 まさか執務室を案内されると思っていなかったファンヌは、少しだけそわそわとし始めた。
「父上、お呼びでしょうか」
「あぁ、エルランドとファンヌか。朝から呼び立てて悪かったね。そこに座りなさい」
 そう言った国王も、朝から執務席に座って、大量の書類に目を通していたようだ。書類の山が三束ほど、国王の前にはできあがっている。
 国王はベルを鳴らして侍女を呼びつけると、お茶の準備をするようにと指示を出す。
 ファンヌはエルランドと並んで、ソファに座る。いたって普通の執務室だ。ブラウンの色調で統一された室内。ソファもアンバー色で、室内に馴染みながらもどこか明るさを醸し出している。
 だが、その明るさとは逆に、どことなく陰りを見せているのは、国王の表情である。
「父上、どうかされましたか?」
「ああ、すまない。どのようにして話を切り出そうかと、少し考えていた」
 そう言葉にするくらい、言いにくい話なのだろうか。国王は、自身の上着の胸元の合わせからごそごそと手を入れると、何かを取り出した。他の者たちに見つからぬように、上着の内ポケットへと隠していたのだろう。
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