婚約者の浮気相手が子を授かったので
「だけど。間違いなく、血は受け継いでいる」
 ベロテニアの者たちは、他の国の者に比べて体力がある。動きも素早い者もいる。視力が良い者もいるし、遠くの物音を聞きつける者もいる。それが獣人の血を引く者の特徴なのだろうと、ファンヌは思っていた。
 そして、感じ取ることができる生涯の相手となる『運命の番』。おとぎ話のような素敵な話であると思っていたが、大昔は、その『運命の番』をめぐって血生臭い争いなども起こったという話もあったようだ。
 そんな中、先祖返りと言われているエルランドはどのような特徴を持つのか。
「エルランドは五歳のとき、突然、獣化したの。きっかけはね、兄弟喧嘩なのだけど」
 男の子が三人もいれば、そのような喧嘩もしょっちゅう起こっていたのだろう。まして、年齢も近い男の子三人。触ったとか触っていないとか、そんな些細なことでさえ口喧嘩になる年頃だ。
「半獣化ではなく、完全なる獣化。そこにいた誰もが驚いた。だって、ここ何十年も、獣化するような人はいなかったのだから」
 テーブルの上に置いたファンヌの手に、王妃の手が重ねられた。気づかぬうちに、体が震えていたらしい。
「大事なことをあなたに黙っていてごめんなさい。だけど、あなたに伝えないことはエルランドが望んだの。自分から言うと言っていたから」
「はい……」
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