婚約者の浮気相手が子を授かったので
 あのエルランドのことだ。きっと時期をみて説明しようとしていたのだろう。その時期がいつになるかわからないところが、エルランドなのだが。
「あの子が『調薬』に興味を持ったのは、それがきっかけね。オスモがすぐに『抑制剤』と呼ばれる薬を準備してくれて、それでなんとかエルランドも獣化の制御ができるようになったの」
 先ほど、国王がエルランドの首飾りから取り出した薬は、その獣化を防ぐための薬なのだろう。
「もうね。エルランドはそこからオスモにべったり。『調薬』の世界に興味を持ち始めて。自分で獣化を防ぐ薬を作るとか言い出して。オスモの薦めもあってリヴァスに留学させたの。ただ、定期的にこちらに戻ってくることを条件としてね。それに向こうで半獣化したら、留学はおしまい」
 そのような不安定な状態のエルランドをリヴァスに送り出すには、送り出す側にも不安があったにちがいない。それでもエルランドの背中を押した国王と王妃は、彼のことを信じていたのだ。
「幸い、向こうでは穏やかに過ごすことができたみたい。あなたと出会ったからかしら?」
 エルランドと初めて出会ったのは、彼の研究室に配属されたときだ。彼の研究室に希望を出したのはファンヌ。若くして教授となり、『調薬』の世界ではエルランド・キュロの名が広がり始めていた頃。今までにない、画期的な『調薬』として、その世界で話題になった。
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