婚約者の浮気相手が子を授かったので
 だから、そういった柔軟な考えを持つエルランドであるなら、ファンヌのことを受け入れてくれるだろうと思ったのだ。その結果『調茶』という技術が、リヴァスに広がり始め、他国にも徐々にその言葉が浸透し始めた。
 だがエルランドはファンヌが学校に入学してすぐに気づいたらしい。それも獣人の力の一つなのだろう。
 エルランドとの『研究』は楽しかった。彼はファンヌを認め、適格に助言を与えてくれる。今思えば、そこにあったのは信頼だ。ファンヌは誰よりもエルランドのことを信頼していた。
「エルランドのあのような姿を見せてしまった以上、あなたに黙っているのはよくないと思って。もし、今の話を聞いて、エルランドとの婚約を解消したいと思うのであれば、私たちは止めない。大事なことを黙っていたのだから」
 ファンヌは首を勢いよく横に振った。言葉にしないのは、今、口を開けば共に涙も零れてしまうから。だから、言葉にできない。
「ありがとう……」
 王妃の言葉に、ファンヌは胸が痛んだ。
 溢れ出しそうになる涙を抑えるために、ファンヌは大きく息を吐いた。
 
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