婚約者の浮気相手が子を授かったので
そして、すぐさま頭を切り替える。エルランドを助けるために。
「王妃様。質問ですが、エルさんは獣化することは今までもたびたびあったのでしょうか? 私がエルさんを知って三年になりますが、その間、私は一度も獣化したエルさんを見たことがありません」
 だから知らなかったのだ。彼が獣化することを。先祖返りと呼ばれていたことを。
「ええ。エルランドが服用する『抑制剤』には二種類あってね。定期的に飲むものと獣化が始まったときに飲むものの二種類。今では定期的に『抑制剤』を飲んでいるし……。そうね、獣化したのはリヴァスに留学する前までね」
「となれば。先ほど獣化しそうになったということには、何かきっかけがあったわけですよね」
「気持ちが昂ったりすると、そうなるみたいだけど。だけど、『運命の番』であるあなたを見つけても獣化しなかったのだから、『抑制剤』が効いていると思うのよね」
 あの場にあったのは何なのか。普段と異なるもの。それは、国王が取り出した謎の『薬』だ。その『薬』を飲んだ者は、自我を忘れ暴れる。暴れたことさえ忘れる。
(もしかして、獣人にだけ効果を表す薬ってこと? いや、その血が濃いほど効果があるってことかしら……)
「王妃様。私、調べたいことがあるのです。エルさんと会わせてください」
 ファンヌは勢いよく立ち上がった。椅子がガタガタと音を立てる。
< 190 / 269 >

この作品をシェア

pagetop