婚約者の浮気相手が子を授かったので
「ファンヌさん。あなたがあの状態のエルランドと会うのは危険なの。あなたがあの子の『番』だから。抑制の利かない状態のエルランドは、あなたを求めてしまう。だけど今、本人はそれを望んでいないから」
 王妃はファンヌの手首を掴んで、引き止めた。
 ファンヌもエルランドが望んでいないことは行いたくない。気持ちを落ち着けて、もう一度椅子に座った。
「王妃様。エルさんがおかしくなったのは、陛下が怪しげな『薬』の分析を私たちに依頼したのがきっかけです。包みを開け、その『薬』を確認していました。その『薬』を、持って来てもらうことはできますか?」
「ええ、わかったわ」
 王妃が人を呼び、言づける。
「王妃様。エルさんのことを、もっと教えてください」
 待つ間、ファンヌは王妃からエルランドの幼い頃の話を聞いていた。それが、彼の獣化を抑制する役に立つのではないかと思いながら。
 王妃の言葉は慈愛に満ち溢れている。息子を思う気持ちは、いつになっても変わらないのだろう。
「エルはファンヌさんと出会えて、本当に幸せ者ね」
 そう呟いた王妃の言葉が、ファンヌの心に突き刺さった。
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