婚約者の浮気相手が子を授かったので
「はいよ、ファンヌ嬢。持ってきたぞ」
 陽気な声と共にサロンへ入ってきたのは、リクハルドだ。
「あ、リクハルドさん。ありがとうございます」
 そういえば、街中で暴れた者の話を聞き出し、報告書をまとめたのもリクハルドであったことを思い出す。
 リクハルドは、テーブルの上に先ほどの『薬』の包みを置いた。
「リクハルドさんは、何ともないのですか?」
「ああ。俺は触っても大丈夫だ。飲んだらどうなるかは、わからんけどな」
 がははと、いつものようにリクハルドは豪快に笑った。
 人によって症状が違う。『薬』に触れて大丈夫な人とそうでない人。飲んでも大丈夫な人とそうでない人。
 エルランドには止められたが、やはり口に含んでみる必要はありそうだ。
 そして、この『薬』の分析はエルランドに頼ることはできない。となれば、頼りになる人間として思い当たるのはオスモしかいない。
「リクハルドさん。エルさんの様子はどうですか? 落ち着きましたか?」
「ああ、そうだな……」
 リクハルドがチラリと王妃に視線を向けたのは、教えてもいいのかと許可を取っているからのように見えた。王妃がコクリと頷いた。
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