婚約者の浮気相手が子を授かったので
 眉尻を下げてそうやって尋ねてきたのは、オスモもエルランドに起きたことを知っているからだろう。
「鎮静剤が効いて、眠っているようです」
「そうか……。あの薬が効いたのか。よかった……」
 きっとオスモがあの場に呼ばれて、エルランドに鎮静剤を与えたにちがいない。
「ファンヌ嬢も、エルのことは聞いたのだな?」
「はい」
「の割には、勇ましい表情(かお)をしている」
「ベロテニアが獣人の血を引く国であることを知って、ここに来てますから」
「わざわざこの時間を狙ってここに来たのには、私に聞きたいことがあるからだろう? そこに座りなさい」
 オスモが示した「そこ」は、体調不良者がオスモに診断してもらうときに座る椅子だった。
「大先生。早速ですが、例の『薬』について相談したくて」
 ファンヌはリクハルドが持ってきた例の『薬』をオスモに見せようとしたが、やめた。この『薬』は、人によって効果が異なるからだ。ここでオスモに見せて、オスモもエルランドと同じような状況になっては困る。
「大先生は……。その『薬』のことをご存知でしたか?」
「いや、先ほど知った」
 つまり騎士団も国王に報告しただけで、他はどこにも情報を漏らさなかったのだろう。そして国王は、まずは身内のみで問題を解決しようとして、エルランドとファンヌに協力を求めたに違いない。
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