婚約者の浮気相手が子を授かったので
 部屋の扉を叩いても返事は無い。部屋まで案内してくれた侍女に様子を伺うと、「入室の許可はもらっているからご自由に」と言う。その許可を出しているのは、国王に違いない。
 ファンヌはそろりと扉を開けた。奥にある寝台が膨らんでいて、それが規則正しく上下している。
「まだ、眠っているようですね」
 ファンヌは隣にいたオスモに声をかけた。
「そのようだな。私はエルの顔だけ見たら、向こうに戻るよ。ファンヌ嬢は、エルが目を覚ますまでここにいるのだろう?」
 オスモは、近くにあったテーブルに備え付けてあった椅子を、寝台の脇に置いた。
「立ったままでは疲れるだろう? 特等席を準備してやった」
 ははっとオスモは笑った。きっとこの状態のエルランドならば、問題ないのだろう。
「ありがとうございます」
「では、私は先に戻るからね。何かあったら、『調薬室』に来なさい」
「はい」
 オスモの背中を見送ったファンヌは、椅子に座ってエルランドの寝顔をじっと見つめていた。
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