婚約者の浮気相手が子を授かったので
 表情が和らぐと共に、瞼がひくひくと動いた。ゆっくりと瞼が開かれ、その下から細い碧眼が現れた。
「エルさん。ご気分はいかがですか?」
「あぁ……。ファンヌか? オレは一体」
 思い出せない、とでもいうかのように彼はファンヌを見つめてきた。
「あ、はい。陛下から怪しげな『薬』の分析を依頼されて、そのときに、ちょっと気を失ったようです」
 その言葉でエルランドは自分の身に何が起こったのかを思い出したようだ。
 聞いたところ、我を忘れ記憶さえ失うと言われていたあの『薬』であったはずなのだが、どうやら彼は記憶がはっきりとしている様子。きっと『抑制剤』の効果なのだろう。
「ファンヌ……。オレは君に黙っていたことがある」
「先祖返りの件ですか? 聞きました」
 ケロッとファンヌが答えると、エルランドは細い碧眼をこれでもかと開こうとしてきた。
「恐らく、陛下が持っていたあの『薬』が、エルさんに過剰に反応したようですね。飲まなくても、匂いか、それとも粉末上のものが固まっていただけだから、知らぬうちに吸いこんでいたとか……」
 う~ん、とファンヌは腕を組んで考える。
「だから、もし、君がオレとの婚約か……」
「しませんよ?」
 ファンヌがエルランドの言葉の続きを遮った。
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