婚約者の浮気相手が子を授かったので
「エルさんのことだから、婚約解消してもいいとか。そんなことを言うつもりなんですよね? ですが、しませんよ。聞いてください。私、リヴァスの王太子とも婚約解消してこっちに来たんですよ? こっちに連れてきたのはエルさんですよね? そこでやっと婚約したのに、そこでまた解消? こっちの王子様にまで婚約解消されたら、もう、私を嫁に貰ってくれる人なんていないじゃないですか……。あ、一人いたかも」
 そこでエルランドが驚き、眉毛をピクリと反応させた。
「リクハルドさんが、エルさんに振られたら、嫁にこいって言ってくれました」
「え? リクハルドに? あいつ……、四十過ぎてるぞ? いいのか?」
「だって、他に嫁に貰ってくれる人がいなければ、そうなりますよね? 今さらリヴァスに戻りたいとも思わないし。できれば、こちらでお相手を見つけることを希望しているのですが」
「だからってリクハルドは……」
「そう言うなら、婚約解消とか、変なことを言わないでください。エルさんが私をこちらに連れてきたんですよね。最後まで責任を取ってください……」
 ファンヌの右目から、一筋の涙が流れた。エルランドははっとし、「すまない」とだけ口にする。
「だけどオレと一緒にいることで、君に迷惑をかけてしまうかもしれない」
「いいですよ。たくさん迷惑をかけてください。だって……、家族になるんだから」
 ファンヌにとっては、かなり勇気を出してその言葉を口にしたつもりだ。恥ずかしくて、顔を伏せる。
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