婚約者の浮気相手が子を授かったので
 『調薬室』を後にした二人は、夕焼けに背を押されながら、仲良く手を繋いで歩いていた。
 エルランドの体調は良さそうである。顔色も良いし、足取りも軽い。
「エルさんも、人のこと、言えないじゃないですか」
 ファンヌがそう口にした。
「昔のことだ。リヴァスに行く前の話だ」
 エルランドは静かに言葉を返す。
「なんだかんだで、結局、私たちって、似た者同士ってことですよね」
 ファンヌが立ち止まり「エルさん」と静かに彼の名を呼んだ。
 小さな声でエルランドの耳元で何かを伝えると、二人の影はゆっくりと重なった。

 次の日――。
 エルランドが『診断室』で体調不良者の診断をし、オスモが研究室でファンヌと共に例の『薬』の成分分析を行うことになったことに対して、もちろんエルランドは不機嫌な顔をしていた。
「仕方ないだろう? あの『薬』がなんであるかがわからない以上、君をあの『薬』に近づけるのは危険なのだよ。だが、ファンヌ嬢はまだ一人で成分解析ができない。となれば、誰か指導する者が必要だろう?」
 オスモは楽しそうに笑いながらエルランドを宥めていた。それでもエルランドは唇を尖らせ、何か言いたげであった。
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