婚約者の浮気相手が子を授かったので
「で、先生。この有様はなんなんですか」
 研究室に戻らせて欲しいとお願いにきたはずなのに、彼の向かい側のソファに座ったファンヌは、なぜかエルランドを問い詰めていた。
「なんで、こんなに書棚が空いているんですか? 薬草も少ないし。ゴミが多いのは、いつものことですから仕方ないですけど……」
「ああ。辞めるんだ。あと十日で」
「えっ、あ……、あつっ……」
 お茶を飲もうとカップを手にしていたのに、急にエルランドからそのようなことを告げられたファンヌは、カップをつい傾けてお茶を零してしまった。
「大丈夫か」
 慌てて手元にあった布地(ぬのじ)を手にしたエルランドは、ファンヌの方に腕を伸ばして彼女の濡れている手を拭いた。
「先生。私、自分でできますから」
 エルランドから布地を奪ったファンヌだが、どうやらこれが布巾(ふきん)ではないことに気が付いた。
「先生……。これ布巾じゃないですけど、なんですか? 使っていいものでした?」
「んあ? ああ、すまない。オレの下着だ。未使用だから心配するな」
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