婚約者の浮気相手が子を授かったので
「大先生……。私、この薬草たちの名前に見覚えがあるんです」
「そりゃ、ファンヌ嬢くらいの『調茶師』であれば、よく目にする薬草たちだろう」
「違うんです。この薬草、リヴァスの工場で扱っていたものです。むしろ、あの工場にある薬草しか出てきていない……。ベロテニアというよりは、リヴァスでよく流通している薬草です」
 ここはベロテニア。であれば、もう少し薬草の種類が豊富であるし、別の種類の薬草の方が主流だ。何しろベロテニアは、ファンヌ的には薬草の聖地なのだ。だが、例の『薬』に使われている薬草は、リヴァスの方で生育している薬草。
 もしかして、あの『薬』はリヴァスで作られたものではないのだろうか。
「だが、この薬草の中で、エルが過剰に反応を示すようなものはないな?」
 リヴァスの工場で使用していた薬草や茶葉は、いたって一般的に流通しているものである。工場で育てていたものもあったが、『違法薬草』などではない。普通の薬草を、魔力を用いて人工的に効率的に栽培していたのだ。
「はい……」
 ファンヌは震えが止まらなかった。
 いたって普通の薬草。そして、見たことのある薬草。まして、リヴァスの工場で用いられていた薬草だとしたら。
 一体、何が起こったというのか。
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