婚約者の浮気相手が子を授かったので
「あったと言えば、ありましたが。なかったと言えばなかったのです。あの『薬』からは、『違法薬』も『違法薬草』も検出されませんでした」
「そうか」
 エルランドも予想はしていたのだろう。ファンヌの報告に大した驚きもしない。
「食事を終えたら、研究室に向かおう。一緒に解析をする必要があるだろう?」
「そうですね。大先生も、この辺はエルさんの方が詳しいからって」
 ファンヌの声がぱっと華やいだ。エルランドが手伝ってくれることによって、少し自信が持てたのだ。だが、ファンヌ自身はそれにすら気づいていない。
 エルランドは表情が明るくなった彼女を見て、微かに笑みを浮かべていた。
 昼食を終えた二人は、その足でそのまま研究室へと向かった。
 あの『薬』は片付けてあるし、換気もした。
「エルさん。問題はありませんか? 一応、窓を開けて空気も入れ替えたのですが」
「ああ。問題ない。あのとき、独特の匂いがしたんだよな……」
「匂い?」
「ああ……。その匂いを嗅いだら……」
 そこで悔しそうにエルランドは顔を歪ませた。
「あ、エルさん。これが、分析の結果になります」
 大きな机の上に、先ほどの帳面を広げた。その隣に、もう別の帳面を広げる。
< 212 / 269 >

この作品をシェア

pagetop