婚約者の浮気相手が子を授かったので
「えぇと。どこからどう何を言ったいいのかがわからないのですが。とりあえず、洗ってお返しします」
 この下着が上のものか下のものか、今、広げて確認するのはやめようと思っていた。
「あ、ああ。それでファンヌ。オレの聞き間違いでなかったら、君は、王太子殿下の婚約者を……」
「あ、そうです。辞めたんです。ですから、また先生の元で研究をと思ったのですが。先生が学校をお辞めになるのであれば、それもできませんよね……」
 ファンヌは完全に退路を断たれたような気分だった。せっかく、クラウスとの婚約が解消され、再び『研究』に没頭できると思っていたのに、その『研究』先が無くなってしまうのだ。
「ファンヌ。その、王太子殿下の婚約者を辞めたというのは、どういう意味だ?」
 エルランドも信じられないのだろう。
「あ、はい。クラウス殿下との婚約を解消してきました」
「なぜだ。君たちの婚約は、明らかに政略によるものだろう? あの国王がそれを認めるとは思えないのだが」
 エルランドがファンヌの婚約が政略であることを知っていることにも理由がある。婚約が決まった時と、学校を辞めなければならなくなった時に、この研究室で「婚約したくない」「学校を辞めたくない」と、泣きわめいていたからだ。この時には他の研究室にいた学生たちも「まあまあ」と慰めてくれたけれど、エルランドだけはファンヌが『研究』をやめなければならないことに反対していた。どうにかして続ける方法はないかと考えてくれたのもエルランドだ。
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