婚約者の浮気相手が子を授かったので
第十一章
 ドレスを身に纏うファンヌは、タキシード姿のエルランドと共に馬車に揺られていた。ファンヌのドレスの色はエルランドの瞳と同じ色。このようなドレスをファンヌは持っていなかったはずだし、念のためにとベロテニアから持ち込んだはずのドレスは別の物だった。
 それがいつの間にか、このドレスに変わっていた。間違いなくヒルマの仕業だ。
 彼の瞳の色のドレスを身に着けているファンヌを目の前にしても、エルランドの表情は硬い。むしろ、むすっとしている。それはリヴァスに来た目的を未だに果たせていないからだ。
 学校の図書館の地下書庫にある論文から、関係しそうなものを片っ端から確認したが、エルランドが納得できるような答えは得られていなかった。それは、ファンヌが調べた案件も同様に。論文の数も多く、年代を遡りながら調べているため、目を通すことができたのはここ五十年ほどの論文であった。
 だからエルランドは、何がきっかけとなって獣化するのかがわからない状況である。ただ、『抑制剤』は効いているらしい。エルランド自身がそう言っているから、間違いはないはずだ。
 そんな不安定な状況にあるにも関わらず、正装をしてまで馬車に揺られているのは、マルクスの誘いがあったからである。王宮で開かれる研究発表会は、調べもので煮詰まった脳にはちょうどいい刺激になるはず、と思っていた。
「エルさん。今日は気分転換のために研究発表を聞きに行くのです。そんなに不機嫌な顔をするのはやめてください」
「不機嫌な顔をしているつもりはない。考え事をしていただけだ」
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