婚約者の浮気相手が子を授かったので
エピローグ
 ノスカ山の残雪が『種蒔きを告げる鳥』の形を作り、黄色いエルバーハの花が咲き乱れる頃。エルランドは二十四回目の誕生日を迎えた。
 パドマから戻ってきても慌ただしく、オスモが『王宮調薬師』を辞めたことで、エルランドが正式にリヴァスの『王宮調薬師』として、王宮に務めることになった。元々そういう約束であったようなのだが、それでもエルランドは不満だった。
 ファンヌは今までと変わりなく、エルランドの仕事を手伝いつつ、希望者には『調茶』の技術を教え、そして研究室で好きな研究に励むという、エルランドさえ羨ましがるような環境にいた。
 あれ以降、エルランドは獣化していない。『抑制剤』が効いているのだという。その『抑制剤』を『調薬』していたのはオスモであったため、オスモがいない今、結局エルランドの仕事が増えてしまったということ。
 そんなエルランドは、リヴァス王国にいるハンネスから一通の手紙と論文の写しを受け取った。それはエルランドの獣化に関する論文のようだ。
 かなり古い物であったため、あの短期間でファンヌたちが探すことはできなかった論文でもあった。
「ファンヌ。ハンネスからこんなものが届いたぞ」
 エルランドとハンネスは、いつの間にか「エル」「ハンネス」と呼び合う仲になっていた。年も近いから、自然とそうなってしまったのだろう。
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