婚約者の浮気相手が子を授かったので
 ◇◆◇◆

 突然、視界に広がる世界が変わった。
 先ほどまでは学校の屋上にいたはずなのに、目の前に広がるのは緑色が八割を占める薬草園。太陽の日差しは柔らかく、薬草たちを眩しく照らしている。
「うわぁ。ここがベロテニアなのですね。転移魔法を体験したのも初めてです。って、転移魔法って、簡単に使えるものじゃないですよね。高等魔術ですよね。先生って何者なんですか?」
 ファンヌが隣にいるエルランドを見上げて尋ねると、彼は風によって弄ばれる前髪を押さえながら、ふっと笑っただけだった。
「それよりも、これが国で管理している薬草園だ」
「転移先がいきなり薬草園っていうのも……。先生って、私のことをよくわかっていらっしゃるのですね。ですが、荷物、どうしましょう?」
 今からでもすぐにこの薬草園を見て回りたい、そんな気持ちが溢れてくるファンヌの口調である。だが、荷物が邪魔だった。
 ファンヌの荷物はトランク二つ分。そのうちの一つは研究に必要な書籍や道具類が入っている。もう一つのトランクが、必要最小限の着替えだ。それ以外のものは現地調達をしようと思っていた。
「オレの屋敷はすぐそこだから。まずはそこに向かう」
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