婚約者の浮気相手が子を授かったので
 エルランドが指を差したすぐそこには、クリーム色の建物が並び、その奥には王宮のような建物が見えた。
「もしかしてこちらの薬草園は、王宮管理の場所ですか?」
「そうだ。ベロテニアは薬草と茶葉の生育に力を入れている。だから、王宮としてもこれだけの薬草園を管理している。あっちの方で栽培しているのが茶葉だな」
 ファンヌの顔が輝いて見えるのは、けして太陽の光を浴びているからではない。この薬草園を見て興奮している様子が、表情に出ているだけ。
「先生。早く荷物を預けて、薬草園を案内してください。一日で回りきれますか?」
「それは君次第だろうな」
 エルランドはファンヌの荷物のうちの一つ、研究に必要な物が入れられている重い方のトランクを手にした。
「ほら。行くぞ」
 黒い髪をさわさわと揺らしながらエルランドが歩き始めたため、ファンヌもその後ろをひょこひょことついていく。
(どう見ても、王宮の方に向かって歩いているわ……)
 手前のクリーム色の建物には目もくれず、一番奥にある王宮に向かってエルランドは歩いていく。すれ違う人も、なぜか彼に頭を下げる。
(先生って、何者?)
 じっとエルランドを見つめるが、彼はファンヌの視線に気付いていない様子。ただ、王宮に向かってすたすたと歩いていく。
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