婚約者の浮気相手が子を授かったので
「ファンヌ。申し訳ないがこの後、紹介したい人がいる」
「え、と。こちらの方たちではなくて?」
「違う。オレの家族だ。ここではないところにいるから、着替えて欲しい」
「え、薬草園は?」
「その後だ。むしろ明日だ」
「え、えぇええ。楽しみにしていたのに……」
 ファンヌが悲しみの声をあげると、またショーンから「坊ちゃん……」と呟きが聞こえてきた。
「ファンヌ様。お着替えはこちらで準備させていただきました」
 クローゼットを開けると、普段使いのワンピースとドレスがいくつか並んでいた。どのデザインも明るく柔らかい中間色のもので、控えめなものが多い。派手ではないが、それでも良質な布地を用いられていることくらい、ファンヌにだってわかる。
「では、今。侍女を呼んでくる。着替えが終わったらサロンでお茶にしよう」
「薬草園……」
「明日、案内してやるから、今日は我慢してくれ」
「薬草園……」
 ファンヌの悲そう感漂う呟きを背に受けたエルランドは、ショーンと共に部屋を出ていった。その後すぐに、別の女性が二人現れた。一人は、四十くらいの女性で、もう一人はファンヌより少し年上に見える女性だ。名前はそれぞれカーラ、サシャと名乗った。コルセットのいらないドレスであればファンヌも一人で着替えることはできるのだが、彼女たちが手伝いそうにしていたので、お任せすることにした。
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