婚約者の浮気相手が子を授かったので
 ファンヌが「ベロテニアへ行きます」と宣言した次の日。
 エルランドは早速彼女の両親と会った。昼前に約束を取り付けたら、その日の夕方に屋敷に来るようにと連絡があった。
 逸る気持ちを抑えて、彼女が暮らしている屋敷へと向かった。そこでエルランドを待っていたのは彼女の両親と兄の三人であった。ファンヌは今日、エルランドがここに来ることを知らないようで、部屋にこもっているとのことだった。さらに部屋の前で侍女が見張っているため、この場には来ないというのが、彼女の父親であるヘンリッキの話である。どうやら、彼女には聞かせたくない話のようだ。エルランドにとっても都合が良かった。
『ファンヌ嬢をベロテニア王国へ連れていく許可をいただきに参りました』
 ヘンリッキは、観察するかのようにじっとエルランドを見つめていた。まるで値踏みをされている気分だった。この男は娘の相手に相応しいのかと、じっとりとした視線を感じた。
『キュロ教授は、父親に似ているとは言われませんか?』
 ヘンリッキの表情が和らいだ。
『父を……。ご存知でしたか』
『私も仕事柄、様々な方とお会いしますから』
 つまり、ヘンリッキはエルランドの真の身分を知っているのだ。
『キュロ教授でしたら、安心して娘を任せることができます。ところで、娘は教授の運命であると、そう考えてよろしいのでしょうか?』
 さすが王宮医療魔術師なだけあり、頭の回転が早い。
『はい……。まだ、伝えておりませんが……』
『キュロ教授。あの()は婚約を解消したばかり。今、その話をしても受け入れることは難しいと思います』
 そう言葉を放ったのはファンヌの母親であるヒルマだった。さすが彼女の母親だなと、このときエルランドは思った。
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