婚約者の浮気相手が子を授かったので
 基本的にファンヌとエルランドの会話なんてそんなものだ。エルランドの言葉が圧倒的に少ない。だが相手がファンヌであればまだいい。他の研究生の場合、ファンヌが間に入らないと会話が成り立たないときもあった。よく研究生が逃げ出さなかったな、と今になってファンヌは思う。
「先生。王宮管理の薬草園で栽培された薬草は、どうするんですか?」
「『調薬』されて、市場に出回る」
『調薬師』と呼ばれる者には二種類の者がいる。『研究』を中心に行っている者と『調薬』と呼ばれる薬の調合を中心に行っている者。『調薬』は、世に出された薬の製法を元に調合する。つまり、既存の薬を作ること。『研究』は今までにない薬の製法を生み出すこと。
 それは調茶の世界も変わりはなく、『調茶』も『調薬』と同じ意味で使用される。また『調茶』の場合、ただ単に茶葉と薬草を組み合わせる場合についても用いられる。
 ファンヌはいつでも新しいお茶を作りたいと思っていた。お茶の場合、『製茶』という言葉が使われる場合もある。『製茶』は今ある製法で茶葉と薬草で大量にお茶を作り出すこと。リヴァス王国の工場(こうば)で行っていたのがこの『製茶』だった。評判が良い効果のあるお茶を大量に工場で製茶して、売っていた。
 ファンヌがいなくなった今、あの工場はどうしているだろうか。製茶の方法は工場で働く者たちにも教えてあるから、何も問題ないはずなのだが。問題があるとしたら、あそこで働いている者たちだろう。長時間にわたる仕事をさせられるため、身体が痛むと口にする者もいた。そういった人たちに、ファンヌは特別に『調茶』したお茶を渡していた。日頃の感謝の気持ちを込め、その人にあったお茶を『調茶』する。それがあの場で『研究』ができないファンヌにとっての心の拠り所でもあったのだ。
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