婚約者の浮気相手が子を授かったので
 オスモは再びファンヌに視線を戻す。
 ファンヌは正面からオスモを見て、どこか懐かしい感じが込み上げてきた。
「あの、以前。どこかでお会いしたことがありますか?」
「残念ながら、二十年近く私はこのベロテニアから出たことがないからね。世の中には似た人間が三人いると言われているから、きっと私のそっくりさんにでも会ったんじゃないかね。まあ、そう言われると、私もファンヌ嬢に会ったことがあるような気がしてきた」
「ですが、残念ながら、私もベロテニアに来たのは昨日が初めてです。きっと大先生も、私のそっくりさんにお会いになったのでしょうね」
「うん、ファンヌ嬢。この話はもうやめよう」
 なぜオスモが無理矢理話を切り上げたのか、ファンヌにはわからなかった。ただ、ファンヌの隣にいるエルランドがむっと唇を歪ませていることだけはわかった。
「どうやら、私がファンヌ嬢と仲良くしていることをよく思わない男がいるみたいだからね」
 ははっとオスモが笑っている。
「さて、と。エル。今日、ここに来たと言うことは、私の仕事を手伝ってくれるのだろう?」
「師匠からそう言われたら、断れない……」
「では、私も先生と大先生のお手伝いをしてもよろしいでしょうか?」
 むっとしているエルランドとは正反対に、ファンヌの顔はきらめいていた。
「手伝いが増える分には助かる。きちんと手伝い賃は支払うからな。さすがにただ働きはさせないよ」
「よろしくお願いします。大先生」
 ファンヌが勢いよく頭を下げたのを、エルランドはため息をつきながら眺めていた。
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