婚約者の浮気相手が子を授かったので
「ベロテニアの伝統的な料理と言っていたが、ここは肉料理が多いんだ」
 案内された窓際の席につきながら、エルランドは口にした。
「ああ、ですから先生はお野菜が苦手なんですね」
 ファンヌの言葉にエルランドは顔を曇らせたものの、反論はしなかった。
 メニューを二人で見ながらも、結局はエルランドにお任せしてメニューを決めてもらった。
 ベロテニアの伝統的な肉料理とは、煮込み料理だった。エルランドが言うには、やはり雪が舞うほど寒い国であるため、身体を温めるような煮込み料理が伝統料理として多いそうだ。
 ファンヌが肉を口にいれた途端、お肉がほろりと溶けてなくなった。
「うわっ。美味しいです」
 口の中に広がる心地よい味に、ついファンヌは左手で頬を押さえてしまったのは、頬が落ちないようにと無意識な仕草である。
「そうか。気に入ってもらって良かった」
 エルランドは嬉しそうに笑う時は目を細める。つまり彼は今、嬉しいのだ。彼も口にフォークを運び入れる。その動きを、ファンヌはじっと見つめてしまった。
「どうかしたのか?」
「先生がきちんとお野菜を食べているかどうか、確認していました」
 ファンヌは気持ちを誤魔化すために、適当な言葉を口にした。だが、エルランドが眉間に皺を寄せた。悔しそうにファンヌの顔を見ている。ということは、適当な言葉はあながち間違いではなかったということだ。
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