婚約者の浮気相手が子を授かったので
「はい」
静々と頷き、彼女はハンネスの隣に腰をおろした。ハンネスはファンヌと違い、チョコレートブラウンの髪を持つ。こうやって並んでも、兄と妹であるとは一目見ただけでは気付かないだろう。兄の髪は、父のヘンリッキ似なのである。そしてファンヌはもちろん母親のヒルマによく似ていた。
「早速だが、本題に入らせてもらう」
ヘンリッキのサファイアブルーの瞳が光ったように、ファンヌには見えた。
「このようなものが、神殿から届いていた」
テーブルの上にパサリと置かれた一枚の書類は、ファンヌが予想していた通りの書類だった。
婚約解消通知書――。その名の通り、婚約解消が正式に成立したことを知らせる通知書である。
「どういうことか、説明をしてもらおうか」
ヘンリッキの声は穏やかでありながらも、どこか身体の底に響くような圧があった。
彼は『医療魔術師』として人と接する機会が多いことから、普段は穏やかな人柄として知られている。その彼が、この声色を出すときは、何やら納得していない状況であることを意味していた。
「王太子殿下であるクラウス様との婚約を解消してきました」
感情を押し殺した声で、ファンヌは淡々と説明を続ける。
「クラウス様は以前からアデラ様に想いを寄せていらっしゃいました。本日、クラウス様からアデラ様が子を授かったと報告を受けましたので、私は潔く身を引かせていただきました」
ヘンリッキの眉間の皺が次第に深くなっていく。
静々と頷き、彼女はハンネスの隣に腰をおろした。ハンネスはファンヌと違い、チョコレートブラウンの髪を持つ。こうやって並んでも、兄と妹であるとは一目見ただけでは気付かないだろう。兄の髪は、父のヘンリッキ似なのである。そしてファンヌはもちろん母親のヒルマによく似ていた。
「早速だが、本題に入らせてもらう」
ヘンリッキのサファイアブルーの瞳が光ったように、ファンヌには見えた。
「このようなものが、神殿から届いていた」
テーブルの上にパサリと置かれた一枚の書類は、ファンヌが予想していた通りの書類だった。
婚約解消通知書――。その名の通り、婚約解消が正式に成立したことを知らせる通知書である。
「どういうことか、説明をしてもらおうか」
ヘンリッキの声は穏やかでありながらも、どこか身体の底に響くような圧があった。
彼は『医療魔術師』として人と接する機会が多いことから、普段は穏やかな人柄として知られている。その彼が、この声色を出すときは、何やら納得していない状況であることを意味していた。
「王太子殿下であるクラウス様との婚約を解消してきました」
感情を押し殺した声で、ファンヌは淡々と説明を続ける。
「クラウス様は以前からアデラ様に想いを寄せていらっしゃいました。本日、クラウス様からアデラ様が子を授かったと報告を受けましたので、私は潔く身を引かせていただきました」
ヘンリッキの眉間の皺が次第に深くなっていく。