婚約者の浮気相手が子を授かったので
 そこでファンヌは残っていたお茶を一気に飲み干した。
「場所さえ教えていただければ、あとは一人で買い物できますから」
「いや。君一人では危ないから、オレも付き合う」
「ですが、この国には暴漢などいないって、先生も先ほどおっしゃったではありませんか」
「この国の者を襲う輩はいない。だが、君のように他国の者は別だ」
 ファンヌは目を細めた。エルランドは言葉を続ける。
「この国の者は獣人の血を引いている者がほとんどだから、他の国の者よりも、五感に長けているし、力の強い者が多い。だからこそ、力の無い他の者は狙われる可能性が高い。まあ、そうならないように騎士団たちがきっちりと見張ってはいるが。それでも、できれば街歩きには必ず家の者を誰かつけて欲しい」
「わかりました……」
 獣人の特徴について、ファンヌにもわからないことが多い。まして、その血を引くこの国の者たちの特徴も。エルランドが言った通り、力の強い人間と対峙したら間違いなく負けるだろう。その力がどれくらいかわかないところが恐ろしい。
「だから、君の買い物には付き合う」
 つまりエルランドが護衛役を買って出るということなのだろう。
「ありがとうございます」
 彼の好意を素直に受け止めることにした。
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