婚約者の浮気相手が子を授かったので
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 ファンヌがベロテニアに来てから、とっくに一か月が過ぎていた。その間、オスモの仕事の手伝いをしつつ、それが終われば新しい『調茶』に挑戦するという彼女にとっては、夢にまで見ていた生活を送っていた。
 ここに来てからファンヌが挑戦していたのは、そばかすに悩んでいるサシャのためにそばかすを薄くするためのお茶を作り出すこと。サシャは他の人と比べて肌の色が白い。それに洗濯や買い出しなどで外に出ることも多い。そういった彼女の話を聞いたファンヌは、完全に治すことは難しいが、目立たなくなる方法のお茶を考えていた。
 茶葉は王宮管理の茶葉園から分けてもらっていた。また、たまにエルランドと共にウロバトの街に行き、露店で茶葉を買うこともあった。
 エルランドはベロテニアの第三王子という立場でありながらも、わりと自由にしているようにファンヌには見えた。
 そもそも彼が王宮ではなく、離れで暮らしているのはメルタネン侯爵の爵位を与えられたからという話だ。彼の出した論文によってその功績が認められたことも理由の一つでもあるらしい。
 さらにキュロというのは、彼の母親の方の姓であり、論文を発表するときには身分を隠すためにそちらを使用しているとのこと。身分を隠すといってもベロテニア王国内では周知の事実であるため、リヴァスの者に知られないようにという理由が大きい。
 とにかく、エルランドはベロテニアの第三王子でありながらも、研究者で調薬師という顔を持っているため、いろいろと複雑なようだ。
 そしてファンヌは、オスモの好意で調薬室のある建物の一室を研究室として与えられていた。これもエルランドがベロテニアに戻ってくる前に、オスモに共同研究者を連れていくと伝えていたことが原因だ。だが、オスモは彼の言う共同研究者が男子学生であると思っていたようだ。
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