ビター・マリッジ
I.空っぽな愛と決め事
お風呂上がりの身体をバスタオルで丁寧に拭いたあと、髪を乾かして、新しい下着を身に着ける。そのうえから長めのパーカーを被ると、左胸に手を当てて大きく深呼吸した。
今日は、月に一回の決め事の日だ。
覚悟を決めてバスルームを出ると、真っ過ぐにリビングへと向かう。
ふかふかの絨毯が敷かれたリビングの中央には、白の革張りのソファー。そこに腰掛けた夫の幸人さんは、無表情で経営学の本を読んでいた。
ソファーから少し離れた場所で立ち止まって、太腿の半分が隠れるほどの長さのパーカーの裾を下に引っ張る。
今声を掛けるのは、読書の邪魔だろうか。
距離をとったまま様子を窺っていると、私の気配に気付いた幸人さんがおもむろに顔をあげた。
「そんなところで、何してる?」
「えっと、今お風呂からあがったところで……」
「ドアのそばで立っていたら冷える。こっちに来て座ったらどうだ?」
「はい」
幸人さんに言われて、ソファーへとゆっくり歩み寄る。けれど私は座らずに、読書を再開させた幸人さんの前に立った。