ビター・マリッジ
Ⅵ.隙間なく埋まるように
二十五歳の誕生日を迎えた夜。私は高級ホテルのスイートルームにある、豪華なバスタブにひとりで浸かっていた。
湯船に肩まで沈めると、入浴剤とジャグジーで作ったふわふわの泡が鼻先や唇にくっつく。
水面にできた真っ白な泡をじっと見つめながら、私は最近の状況についてかなり真剣に考えた。
というのも、タクシー乗り場で小山くんとふたりでいるところを見つかって連れ帰られた夜から、幸人さんがおかしい。おかしいというか、変だ。
遅くなるときは必ずこまめにメッセージをくれるし、仕事や取引先との食事を終えて送迎車に乗ると、特段話すこともないのにわざわざ電話をかけてくる。
ときどきお土産だと称して美味しそうなケーキを買ってきたりするし。さらには、リビングで読書をしている幸人さんのそばを通りすがると、たまに引き止めてキスをしてくる。
今まで私のことに関心など示さなかったくせに。急に私のことを《特別》みたいに扱ってくれるようになった幸人さんの真意が全くわからない。
ただ、私たちの間の会話は以前と変わらず少なくて。それは、幸人さんの態度がおかしくなってからも変わらないままだ。