ビター・マリッジ
「そうじゃなくて……知りたいのは、幸人さんが私のことを妻としてどう思ってるか、ってことです」
思いきって、幸人さんの気持ちに一歩踏み込んでみると、彼が不思議そうに瞬きをした。
どうやら、私の言ったことがいまいちピンときていないらしい。
「だって私、幸人さんのことがよくわかりません。幸人さんが最近前より優しくしてくれるのは、その……、少しくらいは私のことが好き、だからですか?」
そんな質問をすること自体が、結構恥ずかしい。
何度か言葉を詰まらせながら訊ねると、幸人さんが「そうだろうな」と無表情のままに答えた。
「そうだろうな、ってどういう意味ですか?」
「そのままの意味だろ」
冷静に返されて、頭の中が混乱する。
それはつまり、幸人さんは少しくらいは私のことが好きだ、と。そう思って自惚れてもいいってことなんだろうか。だけど。
「でも幸人さん、最近までそんな素振りを少しもみせてくれたことないですよね。最近は、ちょっと、たまに優しいなって思うときもありますけど。基本的には反応薄いし、私とほとんど会話だってしないし。それに、私に笑いかけてくれることだって全然ないじゃないですか」
「笑ってるだろ」
「笑ってる、って言っても、ふっ、とか、クッとかそういうのでしょ。そうじゃなくて、私が言ってるのはもっと……」
初めて会った日に見たような、にこーっとした笑顔のことなのに。
口籠もった私の言いたいことを理解してくれたのか、幸人さんが苦笑いした。