ビター・マリッジ
「あぁ。確かに、初めはそう思っていたから、ひどい言い方をした。悪かったな。あれは訂正する」
私の髪を撫でながら、幸人さんが拍子抜けするくらいに素直に謝ってきた。
「俺といると、梨々香がよく泣きそうな顔をしていることには気付いていた。結婚式のときも初めての夜も、一緒に暮らし始めてからも」
幸人さんの体温の低い手が、私の頬に触れる。
ドキッとしながら上目遣いに見ると、幸人さんが私を見つめて緩く口角を引き上げた。
「だから、姉の身代わりで無理やり俺と結婚させられることになって、嫌なんだろうと思っていた」
「そんなことは……」
「梨々香が俺に好意を持つことはないと思っていたから、俺のほうも不必要な情は持たないように無難に結婚生活を送っていくつもりだった。どうせお互いの企業利益だけで選んだ結婚相手なんだから、気持ちなんてなくていい。最初は本当にそのつもりだったんだが……」
幸人さんが私の頬を撫でながら、ふっと目を細めて笑う。
「梨々香が俺が口にした後継者の話を真面目に受け止めて、月に一回のタイミングに合わせて恥じらいながら誘ってくるのがおもしろくて……」
「え!? おもしろ……?」
私はたとえ肩書だけだったとしても、幸人さんの妻としての役目を果たそうと思って頑張ってたのに。おもしろいなんて……。