ビター・マリッジ
「とりあえず、これからは待つのはやめにした。この前みたいに、他の男を誘われたら困るからな」
「だから、誘ってませんてば」
「でも、誘うのは得意だろ」
「幸人さんにだけです」
「どうだろうな」
揶揄うように目を細めた幸人さんが、私の着ていたバスローブの紐を引き解いた。
はだけて露わになった私の胸に手を這わせながら、幸人さんが下から掬い取るように私の唇を奪う。
幸人さんは膝の上で私を存分に乱したあとで、抱き上げた私の身体をスイートルームの広いベッドへとおろした。
既に頭が蕩けかけている私の上から、幸人さんが覆い重なる。
「幸人さん、好きです。初めて会ったときから……」
幸人さんのキスを受け止める寸前、私の唇からふと、そんな言葉が溢れた。
姉の婚約者として初めて出会った日から、ずっと心の中に秘めていた。一生伝えられることはないと思っていた。
でも今は、幸人さんの腕のなかにいるだけで幸せで。溢れそうになる想いを心の中だけに留めておけそうにない。
涙目で見上げると、幸人さんが私の頬を手のひらでそっと撫でた。
少し前までは、幸人さんの体温の低い手に触れられる度に、私への興味のなさを突き付けられている気がして哀しくなっていたのに。
今はなぜだか、幸人さんの冷えた手が、熱く火照った肌に心地いい。