ビター・マリッジ
「好きです」
もう一度伝えると、幸人さんが私を見下ろして柔らかく微笑んだ。
「あぁ、そうだな。俺も好きだよ」
初めて告げられた幸人さんからの言葉に、胸の奥が熱くなって、目尻から涙が落ちる。
「幸人さん、それ、ほんとですか?」
「どうして嘘をつく必要があるんだ?」
幸人さんが呆れ顔で私の涙を拭いながら、訊ね返してくる。
「だって幸人さん――」
「この前、タクシー乗り場の前で他の男に肩を抱かれている梨々香を見たとき、嫌だと思った」
「え?」
「最初は気持ちなんてなくても無難に過ごせると思っていたはずなのに、梨々香が他の男に触られているのを見過ごせなかった」
「幸人さん、それ、少しは嫉妬してくれたってことですか?」
「梨々香がそう思うなら、そうなんだろうな」
「そう思います」
ずっと疑うことしか知らなかった幸人さんの気持ちが、今は前よりも素直に信じられる。
泣きながら笑う私の唇を、幸人さんの熱い唇がそっと塞いだ。