ビター・マリッジ

顔を洗って戻ってきた幸人さんがダイニングの椅子に座るタイミングを見計らって、カップにコーヒーを注ぐ。


「どうぞ」

幸人さんの前にコーヒーを出して笑いかけると、彼がカップを持ち上げながら窓の外に視線を向けた。


「今日はいい天気だな」

「そうですね。気温も高くなるみたいですよ」

ここ最近は寒くて曇り空の日が多かったけれど、今日は気持ちよく晴れている。

週末に天気がいいのは、ひさしぶりのことかもしれない。


「どこか出かけるか?」

窓の外の眩しい空を見ていると、幸人さんが突然誘いかけてきた。


「え、一緒にですか?」

目を見開いて訊ね返すと、幸人さんが不服そうに顔を顰めた。


「嫌なのか?」

「そんなことありません。ただ……」

「ただ?」

「幸人さんに朝からお出かけに誘われるとは思わなくて、ちょっとびっくりしたんです」

週末の昼間に、幸人さんからこんなふうに誘われたのは初めてだ。

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