ビター・マリッジ
「なんか、デートみたいですね。幸人さんは、私と出かけることに興味がないと思ってたので、誘ってもらえて嬉しいです」
幸人さんとの距離が、また少しだけ近付いた気がする。ふふっとひとりでニヤけていると、幸人さんが私の顔を無表情でジッと見てきた。
「興味がないなんて、そんなこと一度も言った覚えはないが」
「でも、結婚前も結婚してからも一度もデートに誘ってくれたことなんてないじゃないですか」
「前に俺からのランチの誘いをすっぽかしたの誰だ?」
「あ……」
もしかして、幸人さんのオフィスにUSBを届けに行ったときに誘われたあれは、彼の中でデートの誘いとしてカウントされていたのか……
お互い様なのは充分わかっているけれど、幸人さんはビジネスシーン以外での言葉が足りないと思う。
「でも、最初に姉と婚約していたときは、幸人さん、姉と一緒にいろいろなところに出かけてたじゃないですか。だけど私が姉の代理で婚約者になってからは、何の誘いもなかったし。幸人さんは初めは、私に全く興味がなかったんでしょ?」
視線を落として苦笑いを浮かべると、幸人さんが呆れ顔でため息を溢す。