ビター・マリッジ
「それは……、もったいないことをしました」
ボソリとつぶやくと、幸人さんがふっと吹き出して口元に手をあてる。
「そうか?」
「そうです。婚約中に私がデートに誘っていれば、四ノ宮グループとの縁のために私の機嫌もとってくれてたんでしょ?」
「そうかもな」
「それを知っていれば、婚約中も結婚してからも、もっと我儘言ったのに」
「だったら、これから言えばいい」
悔しげにぼやくと、幸人さんがククッと笑った。
「で、今日はこれからどこに行く?」
頬杖をついた幸人さんが、軽く目を細めて柔らかく微笑む。
「だったら、海、は?」
少し考えてから答えると、幸人さんが怪訝そうな顔をした。
「海? いくら気温が上がってきたからって、泳ぐにはまだ早すぎるだろ」
「泳がなくてもいいんです。なんとなく、デートっぽい場所がいいなって。それに、幸人さんってあんまり海が似合わないし」
「どういう意味だ」
クスッと笑う私を見て、幸人さんが首を捻る。