ビター・マリッジ

「それは……、もったいないことをしました」

ボソリとつぶやくと、幸人さんがふっと吹き出して口元に手をあてる。


「そうか?」

「そうです。婚約中に私がデートに誘っていれば、四ノ宮グループとの縁のために私の機嫌もとってくれてたんでしょ?」

「そうかもな」

「それを知っていれば、婚約中も結婚してからも、もっと我儘言ったのに」

「だったら、これから言えばいい」

悔しげにぼやくと、幸人さんがククッと笑った。


「で、今日はこれからどこに行く?」

頬杖をついた幸人さんが、軽く目を細めて柔らかく微笑む。


「だったら、海、は?」

少し考えてから答えると、幸人さんが怪訝そうな顔をした。


「海? いくら気温が上がってきたからって、泳ぐにはまだ早すぎるだろ」

「泳がなくてもいいんです。なんとなく、デートっぽい場所がいいなって。それに、幸人さんってあんまり海が似合わないし」

「どういう意味だ」

クスッと笑う私を見て、幸人さんが首を捻る。

< 116 / 137 >

この作品をシェア

pagetop