ビター・マリッジ




「おかえりなさい」

玄関の鍵を開けると、リビングのドアから顔を出した梨々香が、今夜も俺を出迎えてくれる。

帰宅した俺を出迎えてくれるのは結婚直後から変わらない梨々香の行動だ。だが、最近はドアを開けた瞬間に嬉しそうに駆け寄ってきてくれるから、とても可愛い。


「今日は帰りが早いと聞いてたので、私もご飯を食べずに待っていました」

「ありがとう」

リビングでジャケットを脱ぐと、梨々香が俺の手からそれを抜き取って胸にぎゅっと抱きしめる。

彼女はまた、腕の中のジャケットを鼻先に押し付けようとしていた。


「梨々香が前から気にしている秘書は、もうすぐ結婚するそうだ」

「え、あ、そうなんですね」

梨々香の頭に手を置いて撫でると、彼女が俺を見上げて挙動不審に瞳を揺らす。


「まだ気になるか?」

「いえ、あの……」

気まずそうに目を伏せて首を横に振る梨々香をジッと見つめると、彼女がじわり、じわりと頬を赤く染めていった。

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