ビター・マリッジ
『わかった。行き先は、会社の近く? あまり遅くならないように』
モヤモヤしつつも了承すると、しばらくして梨々香が今夜行く予定だという店のURLを送ってきた。梨々香のオフィスの近くにある、海鮮料理が食べられる居酒屋だ。
メッセージにリンクされた店の情報をスマホでスクロールしながら眺めていた俺は、ふと、ある考えを思い付いた。
「遠山、今日の会食の店の予約、これからだよな?」
「はい、そうですけど」
「だったら、この居酒屋から5分圏内の場所で頼む」
「は?」
パソコンメールに梨々香が今夜行くという店のURLを送りつけると、秘書の遠山が怪訝そうな顔をした。
「どうしてこの居酒屋から? 今日はうちのオフィスの近くの店にしようかと……」
「そこから5分圏内の場所で」
笑顔で圧を与えながらもう一度そう繰り返すと、遠山が口を閉ざした。
あまり納得のいかない様子で俺に背を向けた彼女が、俺が指示した付近の店を探し始める。それを遠目に確かめてから、梨々香にメッセージを返した。
『食事が終わって店出るときに、連絡をくれ』