ビター・マリッジ




『今お店を出ました。これから帰ります』

取引先との会食が終わって社用車に乗り込んだとき、梨々香からメッセージが届いた。


「悪いが、次の筋を曲がったところで一度車を止めてくれ」

「かしこまりました」

いつも社用車の送迎を担当してくれている運転手の内田さんに声をかける。

車を止めてもらった目と鼻の先に、梨々香がいるはずの店があった。


「すぐ戻る」

内田さんに声をかけて車を降りると、スーツを着た男女複数人のグループが店から出てくるところだった。そのなかに、梨々香の姿がある。

すぐに歩み寄って声をかけようとしたが、彼女は店の入り口前で立ち止まって、一緒に出てきた仲間と談笑し始めた。

同世代の人達に紛れて笑顔を浮かべる彼女は、とても楽しそうにしている。

俺といるときとは違った表情を浮かべる彼女を見たら、なんとなく声をかけるのが躊躇われた。

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