ビター・マリッジ

しばらく遠目に様子を見ていると、仲間内のなかのひとりの男が、トンッと馴れ馴れしく梨々香の肩に手をのせる。

どこかで見たことのある男だ、と思ったら、以前タクシー乗り場で梨々香の肩を抱いていた小山(あの男)だった。

小山に話しかけられて笑う梨々香を目にした瞬間、その場に足を留めていられなくなる。


「梨々香」

スーツの集団の外から呼びかけると、俺の声に反応した梨々香がきょろきょろと周囲を見回し。それから俺の姿を認めた途端、パッと花開くように笑った。


「幸人さん、どうして……?」

梨々香は不思議そうな顔をしている同僚達に恥ずかしそうに何かを伝えると、集団の輪から抜けて俺の元にやってきた。


「幸人さん、今日はお仕事の会食でしたよね?」

「あぁ、ちょうどこの近くの店だったから」

「そうですか。偶然ですね」

少し照れながら嬉しそうに笑いかけてくる梨々香を抱き寄せたくなる。

けれど、つい伸ばした腕は、彼女の肩に置くだけに留めて。なんとか冷静さを保った。

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