ビター・マリッジ
シートの背もたれに深く身体を沈めたとき、ふと横顔に視線を感じた。
横目で見ると、梨々香が何か言いたげに俺のことをジッと見ている。
「どうした?」
「いえ、あの……、まさかこんなふうに、偶然幸人さんに会えると思ってなかったので。嬉しいな、って」
梨々香がそう言ってはにかむ。
偶然……、か。まぁ、偶然ではないんだが。そのことは伝えず、梨々香の肩を抱き寄せる。
家にいるときは、擦り寄せたくなるほど甘い香りがする梨々香の髪から、今は少しだけ、酒と煙草の煙が混ざったような臭いがした。
梨々香はよく、俺のジャケットについた匂いを気にしていたが、たしかに。違う匂いが混ざると、何もなくても邪推しそうになるかもな。
片手で梨々香の髪を撫ぜて、掻き上げると、アルコールで少し火照った白い首筋に唇を寄せる。
そこを、ちゅっと強めに吸うと、梨々香がピクリと身体を震わせた。