ビター・マリッジ
「おいで」
「幸人さん、お仕事は?」
「もうすぐ終わる」
そう答えると、梨々香がホッとしたように息をついて、ててっと俺のそばに歩み寄ってきた。
近くに来たところで手をつかまえて引っ張り、足の間に座らせると、梨々香が「ひゃっ」と可愛い悲鳴をあげる。
「幸人さん? ここだと私、お仕事の邪魔に……」
背中を丸めて何か言っている梨々香のお腹に腕を回して引き寄せる。
「いい匂いがするな」
風呂上がりの髪をおろしている梨々香の首筋に鼻を寄せると、彼女がピクリと身体を揺らした。
「あ、はい。今日は新しく出したシャンプーで洗ってみて……」
「香りで誘おうと思って?」
「ち、違います!普通に前のものがなくなっただけで……」
梨々香が耳の後ろを赤くしながら、即座に反論する。
後ろ髪を肩のほうに流して、剥き出しになった白い頸に噛み付くと、梨々香が過敏に反応して肩を震わせた。