ビター・マリッジ
首の後ろにキスしながら、梨々香の前に回した手を服の中に入れようと動かすと、彼女が俺の手を制して振り向いた。
「幸人さん、お仕事は……?」
顔を赤くした梨々香が、困ったように眉尻を下げながら俺に訊ねてくる。
「もう終わってる」
「嘘。だって、さっきから何も進んでない——」
俺の後ろを物言いたげにうろつく梨々香を少し焦らしたかっただけで、本当は仕事なんて、梨々香をそばに呼び寄せる時点で終わっていた。
上目遣いにジッと睨んでくる梨々香の顎をつかまえて、唇を塞ぐ。
息が乱れるまでキスをしてから、すっかり力の抜けた梨々香をソファーに押し倒す。
「この前、うちの両親が言っていたことは別に気にしなくてもいい」
「え?」
「ひさしぶりに梨々香がタイミングを見計らって誘ってきたのは、俺の母親に子どもを急かされたような気がしたからだろ」
そう言うと、梨々香が俺の下で驚いたように目を見開いた。
「幸人さん、気付いて――」
「梨々香はすぐ顔や態度に出るからな」
ククッと笑うと、梨々香が恥ずかしそうに右腕で目を覆う。