ビター・マリッジ
「ごめんなさい……」
急いでブランケットを引き寄せようとすると、幸人さんが先にそれを引き上げて私の肩にかけなおした。そうしてブランケットの端同士を合わせると、私の身体をぎゅっと包む。
「水くらいで気を遣うな。待ってろ」
そう言って、幸人さんが私の頭に手をのせた。
少しも表情を変えずに私を抱くくせに、幸人さんは妙なところでときどき優しい。
たとえ気まぐれだったとしても、些細な彼の気遣いが嬉しかった。
ベッドのスプリングを軋ませて立ち上がった幸人さんが、すっと離れていく。
早足で寝室から出て行く幸人さんの背中は、私には全くの無関心で。少し前まで肌を重ね合わせていたことが、まるで嘘みたいだ。
ドアがパタンと閉まる音が、ひとり取り残された寝室に虚しく響く。
ドアの向こうに見えなくなった幸人さんを想う私の胸が、痛く苦しい切なさで軋んだ。