ビター・マリッジ
パーカーの裾を引っ張りながら、緊張気味に膝を擦り合わせていると、幸人さんが本をおろして不審げな表情を浮かべる。
「どうした?」
切れ長の黒の瞳が、私を真っ直ぐにジッと見上げてくる。突き刺してくるような眼差しの強さが、私をゾクリとさせた。
「あの、今日は、その……タイミング的に良いかと……」
月に一回の決め事の日。私から誘いかけるこの瞬間が、いつもどうしようもなく恥ずかしい。
でも、タイミングがわかるのは私だけなのだから、仕方がない。
うつむいて、パーカーの裾をいっそう強く引っ張ると、幸人さんが手にしていた本を横に置いた。
「あぁ、そうか」
感情のこもらない声でつぶやいた幸人さんが、パーカーの裾を握る私の手首を右手でつかむ。それから左手で私の腰をつかむと、強い力で引き寄せた。
抗うことなどできないままに、脚を大きく開いた状態で幸人さんの膝の上に座らされる。
自然と捲れ上がってしまうパーカーの裾を引っ張ると、幸人さんにその手を抑えられた。