ビター・マリッジ
車の後部座席にふたりきりで乗った私たちが、お互いに言葉を交わすことはないだろう。
朝から重苦しい雰囲気になって、送迎車の運転手に夫婦仲の悪さを晒すだけだ。
「ありがとうございます。私はまだ時間があるので、ここを片付けてから出かけます」
誘いを断る私を、幸人さんが感情の読めない目でじっと見てきた。
無表情な幸人さんに不器用に笑いかけると、彼が私から微妙に視線を逸らす。
「わかった。行ってくる」
「いってらっしゃい」
リビングを出て行く幸人さんの背中に声をかける。廊下の向こうで玄関のドアが閉まる音が聞こえると、私は少しほっとした。
結婚した当初は、私に無関心な幸人さん態度や夫婦の会話すらほとんどない彼との生活を息苦しく思っていた。
それが気付けば、幸人さんから空気のように扱われる暮らしにいつのまにか慣れてきている。
私がこの家で何をしていても、幸人さんは何も言わない。
だからこそ、幸人さんに関心を示されると、どうすればいいのかわからなくなる。