ビター・マリッジ
私に興味がないのなら、常にずっと無関心を貫いてほしい。気まぐれなんて、起こさないでほしい。
私は、幸人さんとの結婚生活に愛なんてないと割り切ろうとしているのに。幸人さんが気まぐれな言動を見せるたび、無駄な期待をしてしまう。
もしかしたら、幸人さんも妻である私に少しは愛情を感じてくれているかもしれない。そんなふうに勘違いしてしまう。
幸人さんに初めて出会った日に彼がみせてくれた優しい笑顔。それがもう一度私に向けられればいいのに、と願いたくなってしまう。
幸人さんの気まぐれに期待するだけ無駄なのに――。
朝食の後片付けを済ませると、私も仕事に出かけるためにスーツの上着を羽織った。
食卓に置いていたスマホをカバンに入れようとして、少し前に着信があったことに気が付く。五分前に入っていた着信は、幸人さんからだった。
お互いに連絡先は把握しているものの、私たちはほとんど業務連絡用のメッセージしか送り合わない。だから、幸人さんから電話がかかってくるのは珍しいことだった。